その古い無人の波止場に残されたコンクリートの桟橋が、何千回もの波の打ち付けに耐え... #エッセイ

その古い無人の波止場に残されたコンクリートの桟橋が、何千回もの波の打ち付けに耐えながら、ただ自らの形を闇に柔らかく馴染ませ続けてきたのは、静かなる事実の提示そのものだった。

強烈な塩気を含んだ冷たい夜風が容赦なく吹き付け、古い船の防舷材のゴムがギィと鈍い音を立てて波に軋み、夜の暗闇が世界のすべての境界線を溶かしている、秋の真夜中の沿岸の古い船着場。

一気に視点を暗い波の打ち寄せる岸壁全体、そして広大な海の闇へと広げていく壮大なマクロの俯瞰のなか、潮が完全に引ききったあとの、深夜の海岸線に響く静かな引き波の音をじっと聴いている時間。

「過去のトラウマにいつまでも囚われて立ち止まっているのは時間の無駄だ、生産性がない、早く前を向け」という前進の強迫が、静まり返った空気のなかに冷たい刃のように漂っているのを感じるかもしれない。

しかし、あの過酷な過去の戦場から、あなた自身のたった一度きりの命を無事に連れ帰ることができたという確かな実感(フェルトセンス)を内臓のレベルでありありと確かめること。

焦ってすぐに社会的な実を結ぼうと自分を急き立てるのをやめ、いま、この安全な部屋のなかで深く息を吸い込む、これこそが魂の主権を他者に渡さないための贅沢な実存の自治。

完璧になれなかったことへの深い悲しみと、その不完全さゆえに愛おしいという全人的な自己との和解が、胸の奥に広がるひんやりとした寂しさと共に溶け合っていく感覚。

他人に理解されるための流暢な説明をそっと地面に手放し、安易な正解で自分を納得させるのをピタッとやめ、ただ夜の波が引いていく低い重低音に身体の重みを預けている。

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